佐保山茶論は平城宮跡東側のやや北寄りに位置する佐保山と呼ばれる緑豊かな丘陵の麓にある 芸術・文芸サロンです。佐保山の裾野は古代より佐保と呼ばれ、南には春日山に源を発する佐保川が東から西に流れています。佐保を東西に横切る一条通りは奈良時代の平城京の大路、一条南大路の面影を残している道です。奈良時代の佐保は高級貴族の邸宅、別荘地で、万葉の歌にも数多く詠まれた風光明媚な地でした。 佐保山茶論の近くに奈良時代を代表する万葉歌人大伴家持、大伴旅人、大伴坂上郎女を輩出した佐保の大伴氏の邸宅があったと言われています。旅人の嫡男が家持、旅人の異母妹で家持の叔母が坂上郎女です。平城京から北九州の大宰府に帥(長官)として赴任していた旅人に大宰少弐石川足人が贈った歌が次の歌です。
さす竹の大宮人の家と住む佐保の山をば思ふやも君 |
石川足人(巻6、955) |
奈良時代、佐保の邸宅、別荘に風雅を愛でる風流士が集い、芸術・文芸を楽しんだことが伝えられています。日本最古の漢詩集「懐風藻」には長屋王の佐保の別荘「作宝楼(さほろう)」の詩宴
で詠まれた漢詩が多数収録されており、そうしたことがうかがえます。
佐保山茶論はこうした伝承を現代の芸術・文芸サロンとしてクラシック音楽や邦楽の演奏、万葉等文芸の講演などを行い、人と文化の輪を広げ
ていければと考えております。
この世にし楽しくあらば来む世には虫に鳥にも我れはなりなむ |
大伴旅人(巻3、348) |
敷地内には山荘風の「鶯鳴館」(おうめいかん)、「竹風亭」(ちくふうてい)そして茶室「知足庵」(ちそくあん)があります。 <<施設案内はこちら>>
竹風亭から眺める庭園は佐保山の山水が流れ入る小さな野池を中心に作庭したものです。
我がやどのいささ群竹(むらたけ)吹く風の音のかそけきこの夕へかも |
大伴家持(巻19、4291) |
|
庭園風景 |
|
|
|
|
旅人亡き後、嫡男家持がまだ若輩であったため佐保の大伴家の家政をみていたのが旅人の異母妹で
家持の叔母の坂上郎女でした。この美貌の才媛は甥の家持に歌の手ほどきをしました。 坂上郎女は佐保山茶論のあたりに住んでいたとの説があります。家持が叔母から歌の手ほどきを受けたのはその家であったかもしれません。
折ふし佐保山茶論の庭を眺め、佐保山の山間にこだまする鶯(うぐいす)の鳴声や、夕闇のなか、不意に霍公鳥(ほととぎす)の叫ぶような鳴き声を耳にしたりすると旅人亡き後の家持と坂上郎女を想い、「家持や坂上郎女もこのような風情を味わっていたのでは」とつい天平浪漫の世界に想いをめぐらせてしまいます。
月立ちてただ三日月の眉根掻(まよねか)き日(け)長く恋ひし君に逢へるかも |
大伴坂上郎女(巻6、993) |
ふりさけて三日月見れば一目見し人の眉引(まよびき)思ほゆるかも |
大伴家持(巻6、994) |
万葉集ゆかりの佐保山に作庭された庭を眺め、時には天平びとに想いを馳せつつ、芸術・文芸が醸し出す豊潤な世界に浸るひとときをお持ちになられてはいかがでしょうか。 |